
1990・スクウェア・ファミリーコンピュータ
ファイナルファンタジーが、ドラクエと並んで国産RPGの二本柱としての地位を確立したのが、この「III」だろう。実際、シリーズ初のミリオンセラーになったし、発売日には売り切れが予想されたので、予約して買った。そう、予約しないと買えない時代があったんですよ、プレステ世代のみなさん。
作っては壊し、また作っては壊すスクラップ&ビルドがFFの真骨頂だが、前作の「熟練度システム」を早々に破棄しての本作のウリは「ジョブシステム(転職)」。ジョブ(職業)という概念自体は「ウィザードリィ」や初代FFからとっくにお馴染みだし、転職システムにしても二年前の「ドラクエIII」ですっかりコンシューマ・ユーザーたちに浸透していたものだが、「ドラクエIII」の転職が、「レベル20にならないと転職できない」「レベルが1に戻る」などのリスキーな条件を伴うものだったのに対して、本作のシステムはいつでも、どこでも、レベルが減ったりすることなく転職できる。好みや状況に応じてジョブを使い分けられるわけだ。ストーリーが進行し、クリスタルを1つ発見するたびに使えるジョブが増えていくのが嬉しかったものだ。
このジョブシステムを生かすために、ストーリーの中で、「小人にならないと入れないために、全員魔導師系にならないと戦えないダンジョン」や「竜騎士にならないと倒せないボス」「暗黒剣士でないと倒せない敵ばかりが出てくる洞窟」などが登場。これらのイベントでは、普段使っていないジョブを使わないといけないために装備品が足りなくなったりして、多少うざったくもあった。また(これは後の「V」でのジョブシステムを経験したから、"いま思えば"という話だが)、異なるジョブの間には継承性や互換性がなく、決まったジョブを使い続けてもいろいろなジョブを使い分けても結局ジョブチェンジするとそのジョブの特性しか享受できないので、最終的には4人のキャラクターが特定のジョブに固定されてしまう、ということにもなった。その辺りの不満点を全て解決したのが、のちの「V」でのジョブシステムだったわけだ。
同じくジョブシステム重視の「V」がそうであるように、ストーリーや世界観は、「II」の悲しく暗いムードとはうって変わって明るめ。やはりストーリーの要所要所において人がよく死ぬのは「II」や「IV」と同じだが、基本的にはとある村のやんちゃな若者4人衆の冒険が、世界を救う戦いに繋がる冒険活劇風。世界は滅ぼされようとしているのに、4人の掛け合いのような台詞回しはどこか呑気で微笑ましいものだった。また、すっかりFFのウリの一つになった飛空艇が3台登場したのも子供心にワクワクした。特に、2代目の飛空艇「ノーチラス」が登場したときの高速スクロールにはぶったまげたものだ。それから、初めて浮遊大陸を飛び出し、眼前に果てしない大海原が広がったときのあの衝撃!それまで旅していた大陸が、世界のほんの一部にすぎなかったという驚きは忘れられない。
それから音楽にも触れないわけにはいかないだろう。たった3音の電子音しか鳴らないPSG音源のファミコンで、ここまで出来るのか、という驚き。ファミコン時代最後のFFに相応しい出来だ。初プレイ時、フィールドで流れるメインテーマ「悠久の風」の美しさに感動し、ゲームを進めるのをしばし中断して曲に聴き入っていたものだ。そして、いくらゲーム音楽が注目されるようになったといっても、せいぜい一つのゲームで使用される曲数は10数曲程度だった当時にあって、本作のサントラに収録された曲数は44。ダンジョンによってそれぞれ専用の曲を用意するなど、場面場面に合わせた楽曲によって演出効果を高める先駆となったのは、この「FFIII」ではないだろうか。
さて、前述したようにファイナルファンタジーが大メジャーRPGとしての道を歩き始めたのが本作。確かに作品全体のムードとして、前作までにあったマイナー臭はすっかり抜けている。ゲームバランスも前2作ほど凶悪ではないし、進行やシステムにおける破綻もほとんど見られない。メジャーとしての貫禄、安定感がここでは漂っている。しかし、そこはファミコン時代のFF。なりを潜めていたかに思えた凶悪なFF、ヒールとしてのFFが、最後の最後、そう、FFIIIの話題となるとほぼ100%登場する「ラストダンジョン」にて、牙をむいて襲い掛かってくるのだァァーッ!(ドギャーン)
「FFII」で全国のよい子のみんなを絶望のどん底に叩き落した長大なラストダンジョンが、本作では更にスケールアップして登場。「クリスタルタワー」「闇の世界」という2つのダンジョンを、やはりノーセーブでクリアしなければならない。しかも、最後にセーブできるポイントと外界のあいだには、これまた複雑で面倒な構造の「古代の民の迷宮」が存在するため、実質3つのダンジョンをアイテム無補給で、ということになる。いや、さらには「クリスタルタワー」の中に、究極の武器防具や最強のジョブ「忍者」「賢者」がゲットできる「禁断の地エウレカ」(これまた深くて長い)への入り口もあるのだ!無論出てくる敵は最強級。この、3つのダンジョンを攻略しなければならないうえに外界へ戻るためには「古代の民の迷宮」を通らなければならないという構造は、ドス黒い悪意に満ち満ちているね!
エンディングを見るためにクリアしなければならない「クリスタルタワー」+「闇の世界」の道程は、ゆうに1時間を越える。しかもその間には、5回もの超強力ボスとの戦闘(+ザンデ戦での長いイベント)があるのだ!特に「2ヘッドドラゴン」の反則的な攻撃力に泣かされ、ともすればファミコンを殴りつけた人も多いのではないだろうか。で、データ飛んだりして。シャレにならん。ラスボスに辿り付くころにはキャラもプレイヤーも心身ともにボロボロだよ!それであっさり「はどうほう」で全滅させられた時は、幼くして鬱病になりかけました。もちろん死んだらそこで終わり。ドラクエみたいに、経験値だけは残るなんてこともないし。全てが水泡に帰す。このシビアさ。出自からして反骨精神と実験精神に満ち満ちていたファミコン時代のファイナルファンタジーは、最後の最後までその牙を尖らせ続けていたのだ。